「黄巾のやつら、また村を襲ったらしいぞ?」

「そりゃ怖いな…。ここも黄巾の奴らにやられるのは時間の問題ってか?」



男達は盛大な溜息をつくと、グイッと杯を傾けた。
どうやら彼らは役人らしい。
結構な身なりをしているし、飲んでいる酒も結構高い物。
それにいいものを食べ過ぎているのか、多少太っている。



「(道中盗賊に襲われるのがオチでしょうよ。)」



そう心で毒を吐きながら、はその役人達の後ろの席で肉まんを頬張っていた。



「それでよ、お前聞いたか?!」

「何を?」

「各地を仙女が徘徊しては、黄巾の賊らや山賊やらを討伐してるって噂!」

「ゲッホゲホ!!!!!」

「わ、大丈夫か?!」

「ほら、これ飲め!」



役人達は後ろの咽て苦しんでいるに水を渡した。
はその水を受け取ると、急いで口に含んで詰まっていた肉まんを飲み込んだ。
涙目になりながらも呼吸を整えて気管を落ち着かせたが、まだ苦しい。
もう一つほど肉まんが残っていたが、助けてくれた役人達に手渡した。



「(もうトラウマだな、肉まん。)」



とても美味しかったのに乗りで役人にあげちゃった、と少々後悔しながらも、
マントについたフードを深く被りゆらりと立ち上がった。



「おい、…大丈夫なのか?」

「大丈夫。…感謝する。」



心配そうに覗き込む役人を避けながら、店主のもとへと歩く。
するともう1人の役人がじっとこちらを見ていたのに気がついた。
役人はふと何かを思ったのか、すぐに出て行こうとするに慌てて口を開いた。



「その身なりは旅の方かい?」

「そんなところ。…店主、金置いておくね。」



早口で答えると、さっさと店主にお金を渡して出口へと向かった。

どうせ話したかったのは『仙女の話』だろう。
美味しい肉まんを1つ食べ損ねさせた『仙女の話』などもう聞きたくは無い。



「あいよ!またいらしてくださいな!」



陽気に手を振る店主に、にっこりと微笑んで手を振った。
その横で「気をつけてな!」と役人達も手を振っていた。











「仙女だって。」

「うわ!!」



店から出てすぐ、は横にあった木の陰から声をかけられた。


長身で長く靡く金色の髪。
そして瞳の色は緋色。
どう見ても人間とは思えないだろう。


実はこの男『来斗』は、に憑く神の端くれである。



「絶対のことだよね、仙女って。各地で崇められてるのかな?」

「来斗、茶化すのはやめて。」



キッとにんまりしている来斗を睨んで、さっさと馬にまたがった。
その後ろに来斗がまたがり、笑いながら手綱を引く。

ゆっくりと走り出した馬の鬣を弄りながら、はむっすりと来斗に言った。



「しょうがないでしょ?ああいう人が勝手に呼んでるんだし。そんなに笑わなくてもいいじゃない。」

「だってさ〜、が仙女だってよ?こんなに凶暴で口が悪くて…ククク。」



寝相だって悪いのに、と来斗が言い終わった後、思いっきり肘鉄を喰らわせた。
全く、神の端くれならもっとお淑やかに神々しくあるべきだろう。

は「左慈師匠に言いつけるから」と言って馬の鬣弄りを再開した。



「いたたたた…相変わらずいい腕してるね、は。」

「3年間死ぬ思いで修行したからね。」

「もうあれから3年が経ったんだ。」

「…過去話はしたくない。」



は苦笑を漏らして俯いた。










しばらく無言が続いたが、来斗がピクリと何かに反応した。
来斗は馬を止め、周りを見渡す。
風がそよそよと吹いている中に、他に金属のこすれる音が混じっている。

は馬の鬣弄りをやめて、めんどくさそうに来斗に聞いた。



「…さっきから付けて来てたやつ?」

「みたいだね。」



「物騒だな。」と言っては馬からひょいっと降りると、
何かが潜んでいると思われる場所に声を掛けた。



「そこにいるのはわかっている。賊ならば討たせてもらうぞ?」



しんと静まったまま、その茂みは動かない。
だが、その茂みから微かな呼吸が聞こえる。

更に少し近づくと、その茂みの後ろの木々の間からはたくさんの気配を感じた。
きっと伏兵か何かだろう。



「(結構賢い賊、か。)



もっと近づいてやろうと思った瞬間、に向けて大量の矢が降り注いだ。



「馬鹿が!!まんまと近づきおったな!!」



茂みから出てきたのは汚い身なりの男。
どうやら盗賊か何かの頭だろう。

頭は笑いながら地面にうずくまっているに近づいた。
にやにやしながら腰に差していた剣を抜く。

それを合図に、後ろの木々の間から手下が現れた。
人数は40人あたりか。

皆、黄色い布をまとっている。



「(黄巾か。)」



来斗は溜息をつくとうずくまったに近づく頭に警告した。



「それ以上近づかない方がいいぞ?」

「あぁ?」

「そいつは凶暴だ。」

「はん!俺達の放った矢に当って死んだんだろ?嘘ついてんじゃねぇ。」



頭は鼻で笑うと、足でを蹴りあげた。

その瞬間、頭の持っていた剣の刀身が重たい音を立てて地面に落ちた。
頭は何が起こったかわからず、その剣を呆然と眺めた。



「一体…?!」

「ほら、凶暴って言ったでしょう。」



来斗がそう呟いた時にはの姿は無く、頭はもう事切れていた。

先ほど振ってきた矢が1本、頭の胸に綺麗に刺さっていた。
頭は一瞬の出来事だったのだろう。
その表情には苦しんだ跡はなかった。



はっと…………お?」



来斗は頭の手を胸の上で組ませると、黄色い人だかりが目に入った。
その人だかりの中を見ると、手下の者が必死にに命乞いをしているところだった。
もう事は済んだらしい。



、全員許す?」



人だかりの中を進んで来る来斗に、はうなずく様にニッコリと微笑んだ。



「皆、改心すると言っている。1回目は信じようと思ってるの。」

「そっか。…良かったね、皆さん。」

「だけど、2回目は無いと思え。」

「はい!!」

「これからは改心いたします!!」



改心した賊達を背に2人はまた馬を走らせた。
ここ最近、2人はこのように賊を討伐しているのだった。
以前討伐した賊達はちゃんと改心しているらしく、民が襲われたという噂は立たなかった。

この改心すれば殺さずに生かせてもらえるやり方を、良いという人もいれば悪いという人もいる。
だが、黄巾も元は民。
そこを考えると、この方法は良いという人が多かった。
その慈悲深さを仙女のようと例える噂が立ったのだ。

そしてもう1つ仙女と言われる訳は、武術にあった。
剣も持っていなければ、槍も無い。
一瞬の内に攻撃をされて倒れるものだから、見た人は神の技だと称えた。
悠々と立つその姿はまるで仙女のようだと言うのだが…。

当の本人は灰色のマントにフードを被っている。
一体どこのどいつがそんな噂を流したのやら。
もしかしたら、傍にいた来斗を女と間違えたのかもしれない。

は噂と言うものは怖いなと来斗と一緒に話すのだった。



賊達が見えなくなるまで馬を走らせて、はニッコリと微笑んでまた馬の鬣弄りを再開した。
その様子を微笑ましく見守る来斗。



「早く張角を討たないとね来斗。」

「そのためにも、劉玄徳に会いに行かないと、ね?」

「そうだね。」




そんな2人が向かう先は、劉玄徳が治める蜀の地である。
















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アトガキ

長編『鶴が舞うように』スタート!!
だけど文章がまとまらないという、ね。
色々と書きながら勉強していきたいなと、
思っています。
それでは。
(2006.12.24)